【はじめに】

平成16年3月19日に行なわれた第33回日本脳卒中の外科学会総会において、主催された滝会長のご推挙により、手術治療ライブセッションにて、多くの学会員の見守る中、未破裂動脈瘤の手術を執刀させていただく機会を得た。筆者にとって初めての経験であり、術前準備から術中、術後を通して、大変多くの貴重な経験をさせていただいた。幸いに予定時間内に大過なく手術を終えることができ、患者の術後経過も極めて順調であったことを報告するとともに、学会としての初めての試みであるこうしたライブ手術の持つ意義や問題点について、執刀医の立場からいろいろと考えるところがあったので、今後の学会の運営という観点からも経験者の感じたところを素直に述べさせていただきたいと思う。

【症例のまとめと術後経過】

症例は48歳男性で、頭痛の精査の過程で偶然発見された右中大脳動脈瘤である。外科的治療についてのインフォームドコンセントが得られたので、開頭術を行なうこととなった。なお、学会ライブへの参加に関しては、あらかじめ院内の倫理委員会の承諾を得た上、ご本人に対しプライバシーに充分配慮した上での同意を、書面にてあらかじめ得た。

術前のMRAでは直径8mmほどの右M1-M2分岐部にできた上向きの中大脳動脈瘤であったが(Fig.-1)、血管撮影を行なうと、この部分は2方向に分岐した動脈瘤であり(Fig.-2)、さらに内頚動脈分岐部にも上向きの小さな動脈瘤があることが明らかとなった
←Fig.-1
Fig.-2 →
手術はすでに学会で供覧したとおり右のminimal pterional approach1)にて行なった。開頭し末梢よりシルビウス裂を分けたが、前頭葉からの太いSylvian veinが横切る形となり、視野の展開に難渋した。結局動脈瘤は3Dアンギオの所見どおりの形であり、術野の手前に小さな瘤が突出し、その裏側に上向きの大きな瘤とsuperior trunkとのネックが隠れる形となっていた(Fig.3-1)。そこでまず手前の瘤を杉田チタニウム7mm直線クリップで潰し(Fig.3-2)、ブレードを小綿片で上方へ持ち上げるようにすることでsuperior trunkの全貌を視野に得た(Fig.3-3)Superior trunkは大きな瘤のドームに線維性に強く癒着していたため、ネック近傍のみを剥離し、親動脈に平行に杉田チタニウム12mm直線クリップを先端をsuperior trunkぎりぎりまで進めるようにアプライしクリップした(Fig.3-4, 3-5)。それぞれの親動脈のpatencyDopplerにて確認後、内頚動脈分岐部動脈瘤の処理に移った。
Fig.-3

1) 2) 3)
4) 5)

シルビウス裂を中枢側へ剥離を進めることで、この部は容易に露出された。瘤は2mmほどで内頚動脈分岐部に半球状に突出していた(Fig.4-1)。ネックの形状は単純円形型から長軸直行型に見えたので、杉田チタニウムミニ膝型クリップで膝を用いる形でこれを完全に潰した(Fig.4-2)

止血を確認し、型のごとく閉創した。質疑応答などの待ち時間を含め手術時間は2時間43分、出血量は50mlほどであった。ドレーンなどは留置しなかった。
←Fig.4-1
Fig.4-2 →
術後覚醒は良好で、特に新たな神経脱落症状は認めず、翌朝にはベッド上に座位で新聞を読んでいるほど回復は順調であった。術後1週間目に行なった血管撮影では、中大脳動脈瘤、内頚動脈分岐部動脈瘤ともに完全にクリップされており、親動脈の狭窄等も認めなかった。(Fig.-5)患者は翌週の土曜日に軽快退院した。入院期間は9日間である。
Fig.-5



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